医学論文 総説要約

「CD感染症・下痢のマネージメント」JAMA総説より

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はじめに

入院患者さんの下痢といえば何を考えますか?

抗菌薬関連下痢症?経管栄養の不耐性?他には?

そうです、Clostridium Difficile感染症(CDI)が重要ですね

入院患者さんの発熱としてもマストな鑑別です
(ちなみに最近はClostridioides Difficileと言い方が変わってきています)

今回はJAMAのReview「Diagnosis and Treatment of Clostridioides (Clostridium) difficile Infection in Adults in 2020」を中心にCDIの診断・治療について見ていきます

原文はこちら

重要事項まとめ

今回は以下の4点を抑えて頂ければOKです!

・診断/定義:毒素産生株のC. difficileが便中に存在し下痢などの症状を呈す

・日本ではCD toxin(特異度 高)と抗原検査(感度 高)を参考にする

・欧米ではMNZからVCMやFDX中心の治療へ変化

・日本では非重症例にMNZを使うこともある

診断

定義

CDIの診断定義は次のようになっています

「毒素産生株のC. difficileが便中に存在し、下痢などの症状を呈した状態」

ここでいう下痢の定義は、無形の弁が24時間に3回以上出ることとされています

 

ここで、わざわざ症状に言及したのには訳があります

症候性・無症候性にきちんと分けることが重要だからです

無症候患者への介入は正常細菌叢を乱して、むしろ症候性のCDIを誘発する可能性があるとされており、無症候性のC. difficileに対する介入は推奨されていないのです

検査に踊らされて、治療必要性のない患者に抗菌薬を投与するなんてことはやめましょう


検査

以上を踏まえて、検査について見ていきましょう

と、その前にJAMAのReview中に記載されているNAAT(核酸増幅検査)は、アメリカで広く用いられていますが、日本では一般的ではありません

なので、日本の臨床現場に沿った解説をしていきますね。

 

日本ではCD toxin検出法と抗原検査(GDH法)が用いられています

それぞれを簡単にまとめると

・CD toxin:
toxin A/Bを検出し、特異度は高いが感度は低い

・抗原検査:
CDが持つGDH抗原を検出する検査で、感度は高いが特異度が低い

といった具合です

これらを組み合わせると、

①GDHが陰性であればCDIは否定的と考える
②GDHが陽性でCD toxinも陽性であればCDIらしい
③GDHが陽性でCD toxinが陰性であればCDIの判定保留

といったパターンが考えられます

困るのは、③の時で毒素産生株のC.difficileでない可能性があり迷います

ここで早合点して、治療開始をするのはやめましょう。

では何をすればいいのか?

 

③の時のアクションは以下のようなものがあります。

・臨床的に疑わしい/重症な時には治療開始
・2~3回toxin検出法をを繰り返す
・内視鏡で覗きに行く
・便培養で検出したCDを用いて毒素産生株か確認する

判断をどれだけ待てるのかという点や、検査による侵襲が必要か、などの観点から個別に考えていきます

治療

続いては治療に入っていきます

IDSAガイドラインは再発性CDIを減らすことに重点を置いています


重症度分類

非重症:WBC<15,000、Cre<1.5

重症:WBC≧15,000、Cre>1.5

劇症型:低血圧、ショック、イレウス、中毒性巨大結腸

治療レジメン

まず、誘因となっている抗菌薬を可及的速やかに中止します

そして、脱水補正+抗菌薬がメインです

抗菌薬は
・バンコマイシン(VCM)
・フィダキソマイシン(FDX)
・メトロニダゾール(MNZ)

を用います

後述しますが欧米と日本と若干考え方が異なるので注意が必要です

以下のレジメンが今回のReviewでも記載がある(IDSAガイドライン推奨の)レジメンです。

☆非重症例・重症例
・VCM 125mg×4回/日を10日間
or
・FDX 200mg×2回/日を10日間
☆劇症型
・VCM 125mg×4回/日

・MNZ 500mg q8h div
※メトロニダゾールの扱い
IDSAガイドラインでは非重症・重症例のどちらにもVCMかFDXが推奨されており、MNZを1st choiseとしていません

MNZは他薬剤のアレルギーや不耐性、費用的な問題がある場合に限定されています

再発が多くなる可能性があるなどが過去の研究からわかっているためです

日本では強病原性株の割合は多くないと言われており、費用・VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などの問題からも非重症例ではメトロニダゾールを使用することが多いでしょう

メトロニダゾールを用いた治療例についてはこちらもご覧ください
亀田総合病院感染症科 CDI

※その他の注意点
バンコマイシンは内服ですよ!
点滴でオーダーして、注意されてから指示出し直し…という研修医が多数いるので気を付けましょう

またPPI・H2BはCDIリスクになるため、盲目的な投与はやめましょう!

再発例の治療

ややAdvancedな内容ですが、再発例も見ていきましょう。

以下のような方法が推奨されています。

・バンコマイシン漸減パルス療法
 ―125mg×4回/日を2週間
 ―125mg×2回/日を1週間
 ―125mg×1回/日を1週間
 ―125mg×1回/2日を2~8週間

・リファキシミン併用療法
 ―10日間のVCM+20日間のRFX

・便移植(FMT)
 ―3回CDIにかかったら考慮

最新の治療開発

以下の治療法が期待されているようでした
またガイドラインが新しくなれば登場しているかもしれませんね

・Ridinilazoleの登場
・生物学的製剤、プロバイオティクス
・バクテリオファージを用いた治療

最後に

今回はJAMAのReview「Diagnosis and Treatment of Clostridioides (Clostridium) difficile Infection in Adults in 2020」よりCDIについてまとめてみました

2017年のIDSAガイドラインや日本の現状も交えて解説したので、読者の研修医・レジデントの皆さんもきっと参考になったかと思います

他にも接触感染対策や下痢の鑑別疾患など関連するトピックは尽きませんが、上で出てきたことは基本的な内容ですので、しっかりと押さえておきましょう!

参考資料

Krishna R. et al. Diagnosis and Treatment of Clostridioides (Clostridium) difficile Infection in Adults in 2020. JAMA. 2020;323(14):1403-1404.
↑今回のReviewです

Clin Infect Dis. 2018;66(7):e1-e48.
↑2017年のIDSA CDI guideline

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今回は日本におけるCDIの診断・治療について参考にしました

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