医学論文 総説要約

「熱中症のマネージメント」NEJM総説より

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はじめに

春が過ぎて気温や湿度が上がってくると、熱中症の患者さんが増えてきます

冷えたラクテック、霧吹き、扇風機…救外の夏の風物詩ですよね

というわけで、今回は2019年にNEJMに掲載された熱中症のReviewをまとめていきたいと思います

原文はこちら

重要事項まとめ

以下を意識して読んで頂くといいかと思います!

・古典的、労作性の熱中症の2つの分類がある

・診断は以下3つの観点から臨床的に
 ①高体温
 ②神経学的異常
 ③暑熱環境もしくは身体労作

・治療の中核はひたすら冷却。ひとまず深部体温39℃を目標に!

・冷却後は集中治療的に各システムにアプローチしていく

目次

分類

病態生理

診断

鑑別疾患

臨床像、合併症

治療

予防

参考資料

分類

このReviewによれば熱中症は以下の2つに分けられます

①Classic Heatstroke:古典的熱中症
②Exertional Heatstroke:労作性熱中症

大まかにいえば、

①は暑熱環境への暴露や熱の発散不足によるもの
②は運動により代謝性熱が生理学的熱損失を上回るものと言えるでしょう

それぞれは以下のような特徴によって区別されます


以下にそれぞれを詳しく見ていきます

古典的熱中症

症例のイメージは、夏に車の中に放置された幼児クーラーをつけずに屋内で過ごした高齢者です

暑熱環境に対しての適応・調節がうまく行かないことのより生じます

循環を調節能が追い付かず、末梢血管が開いて適切な心拍出が得られなくなるという生理学的変化をもたらします

原因となる社会的要因や薬剤には以下のようなものが挙げられます

社会的な要因:
孤立、換気・空調の行き届いていない生活環境、ケアが自身で行えない、寝たきり

関連薬剤:
βブロッカー、Ca拮抗薬、便秘薬、抗コリン、精神科の薬剤


労作性熱中症

身体活動によって起きるものです

普段は健康で何も問題のないアスリートや屋外労働者、兵士などでもみられます

高温環境はもちろんリスクになりますが、必ずしも必要でなく、あくまで労作がトリガーとなります

ウイルス・細菌感染や脱水・睡眠不足・火傷などによる汗腺の異常などが関連することもあります

また薬剤の関与ではアルコール、違法ドラッグ(パーティー、フェスティバルなどは特に注意)などが挙げられています

決定的でないものの熱中症の既往がリスクであるという見方があります

病態生理

「Heat loss<Heat gain」

つまり

「体温調整の代償が効かなくなったフェーズ」

において、体温調整に必要なcardiac outputが得られていないことによって起こります

その結果として深部体温が上昇し、細胞毒性・炎症反応の悪循環が起き、多臓器不全に至ると考えられています
(細かい部分は割愛します。炎症反応やエンドトキシンの話は面白いので気になった方は読んでみてください)

診断

3徴を考慮して臨床的に診断されます。

①高体温
②神経学的異常
③暑熱環境もしくは身体労作

このうち高体温に関しては、深部体温の測定が適していかもしれません

40.5℃以上という目安が用いられることもありますが、不正確な測定による偽陰性などに注意が必要です

神経学的異常として早期に見られる症状には、以下のようなものが挙げられます

行動変化、混乱、せん妄、めまい、虚弱、興奮、好戦性、不明瞭言語、嘔気、嘔吐などがあります。重症例では痙攣、括約筋弛緩・失禁(特に労作性)

その他参考となる身体所見には以下のようなものがあります。

その他参考となる身体所見には以下のようなものがあります

・頻脈、頻呼吸、低血圧はCommonな徴候
・古典的では「発汗なし」、労作性では「汗びっちょり」が多い
・皮膚の色調は全身性に血管拡張し発赤している可能性があるが、循環不全例では蒼白である

鑑別疾患

熱中症は治療が遅れると重篤化するので、

[熱×神経学的異常]

を見た時に最初に除外する疾患です

熱中症を念頭に置きつつも、他に考慮すべき疾患が書かれています

・髄膜炎
・脳炎
・てんかん
・薬物中毒(アトロピン、MDMA、コカイン、アンフェタミン)
・重度の脱水症
・その他代謝疾患
(悪性症候群、急性致死性カタトニア、Thyroid storm、褐色細胞腫クリーゼ)

真夏に熱中症の患者が救外に押し寄せる中でも、冷静に診療すべきであることがわかりますね

臨床像、合併症

3つのPhaseがあると書かれています
特に労作性でクリア見られるとのことです

①神経(Hyperthermic neurologic acute phase)

Primary careではほとんど①の状態であり、このときに認知し治療開始すれば軽症で済みます

神経系の異常として通常は意識障害が見られますが、40.5℃を下回ると復活してくることが多いようです

重症例では脳浮腫が起き、痙攣が合併することもあります


②血液(Hematologic-enzymatic phase;24-48hピーク)

治療が迅速であれば臨床像は速やかにやわらぎ、数日以内に改善しますが、特に労作性で見られることの多い多臓器不全は24-48hがピークと考えられています

DIC、ARDS、横紋筋融解症が見られ、腎・心・肝機能が急性に悪化することもあります


③肝腎(Late renal-hepatic phase;臨床症状が96h以上続くとき)

腎・肝機能障害が96時間以上持続する場合は予後不良であるとされています

治療

初療~退院まで段階に分けてまとめてみました

初療(病着前~救外)

①心肺停止時のCPR
・Coolingより優先されるのは蘇生のみ!
・ACLSにのっとって行う
・O2 4L/minから始めてSpO2>90%を保つ

②体温調節
・深部体温を用いて以下を目安に冷却する
 ―0.2-0.35℃/min(0.1℃/min以上)
 ―39℃程度が目標(明確なEnd pointはない)

・以下の冷却方法を用いる
 ―冷却スーツや冷却輸液
  →CVから4℃の1000ml/30min
 ―冷水浴
 ―アイスパックを当てる
 ―水をかけて扇風機で蒸発させる

・解熱剤は投与しない

・ダントロレンは研究中だが否定的


③抗けいれん薬(痙攣している場合)
・ベンゾジアゼピン5mgを反復投与
・フェニトイン
(loading dose: 15-20mmg/kgを15minで)

④血液検査
・血算、生化学(肝・腎機能、血糖、電解質、CK、LDH、ミオグロビン、CRP)、凝固、アンモニア、血ガス尿検査、血培など

・最初の72時間程度は各種バイオマーカーをフォローするのがベター

※ただし、L/Dだけで重症度や予後を予測できるわけではないことに注意


入院管理・集中治療

Reviewには各臓器/システムごとに具体的にたくさんの情報が書かれていました

そのマネジメントの多くは集中治療の参考書に書いてあるようなことなので、ここでは横紋筋融解についてのみに触れます

残りは割愛しますが、集中治療について特に循環管理、輸液について知りたい方は下記の参考書をお勧めします

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横紋筋融解症の管理

横紋筋融解症の管理は下記のように書かれていました。

・最初の1時間で1-2L/hrのアグレッシブな輸液→300ml/hrへ
・尿のアウトプットをみながらOverloadになる場合はフロセミドIV
・尿pH>6.5となるまで重炭酸Naを30mmol/hr投与
・ミオグロビン尿が出てくる
・高Ca、代謝性アルカローシス:pH>7.5は避ける

こちらに関して、どこまでExpert Opinionなのかがわからなかったので、他の資料としてUpToDateも参照しました↓

CK>5000U/Lであれば(Grade1C)、輸液1-2L/hr生食で初回輸液(Grade2C)
・尿量を200-300ml/hrを確保

・低Caなし、A-gas pH<7.5、HCO3-<30mEq/Lの場合はアルカリ性溶液(重炭酸Naなど)を投与(Grade2C)
→3-4時間後にも尿pH>6.5しない場合や、A-gas pH>7.5、HCO3->30mEq/L、症候性低Caがある場合はアルカリ性溶液の投与から生食へ切り替え

・ループ利尿薬はAKI予防への有効性は示されていないが、容量負荷がある場合は使用を考慮

・K、Caは安定するまで1日数回測定

(UpToDate>Prevention and treatment of heme pigment-induced acute kidney injury)

その他の治療の項目では、研究進行中の薬剤はバイオマーカーについて書かれていました。気になる方は読んでみてください。

退院に向けて

高齢者は家庭環境などを整えるために、社会調整が必要です

アスリートや軍人の復帰については定まったものはありませんが、L/D正常化は確認しつつ気を付けながら戻る形をとっているとのことでした

予防

・暑熱環境を避け、エアコンなどの屋内環境を整える
・高齢者の孤立も誘因となるため、ソーシャルな面も配慮する
・普段の強度や体調を鑑みて過度な労作は控えて、適度な休息をとる
・運動する時間帯や服装にも注意を払う

最後に

さて今回はNEJMのReviewから熱中症を題材として扱ってみました

夏本番に向けてしっかり予習して、きちんと対応できるようにしておきましょう!

参考資料

Yoram E. et al. Heatstroke. NEJM 2019;380:2449-59
↑今回のReviewです

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