医学論文 日本語要約

左心室壁血栓に対する抗血栓治療

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タイトル

Antithrombotic Therapy for Patients With Left Ventricular Mural Thrombus

J Am Coll Cardiol. 2020 Apr 14;75(14):1676-1685.

原文はこちら

論文を一言でまとめると

・左室内血栓の存在は主要な心血管イベント及び死亡率に高い割合で寄与していた。

・左室内血栓の消退は、死亡率改善に関連していた。

・抗凝固療法間での差は認められなかった。

Objectives

・左室内血栓に対する抗凝固療法の有効性を評価する。

・左室内血栓消退と臨床転帰における予後予測因子を評価する。

Methods

[場所/施設]

Pitié-Salpêtrière hospital (フランス, パリ)

[デザイン]

単施設 後ろ向き観察研究

[期間]

2011年1月~2017年12月

[患者]

上記施設で施行されたTTEにて左室内血栓を指摘された患者

[評価]

1. TTEをもとに、2名のexpertsによる確定診断

2. 診断が異なる場合:他モダリティにて評価 (contrast TTE, CT, MRI) + 3人目のexpertによる確定診断

[Endpoint]

1. TTEによる血栓評価; 血栓完全消退, 血栓残存(①血栓増大 ②変化なし ③部分消退)

2. MACE (全死亡, 脳卒中, 一過性虚血発作, 心筋梗塞, 急性末梢動脈塞栓)

3. 塞栓イベント (脳卒中, 一過性虚血発作, 冠動脈塞栓, 急性末梢動脈塞栓)

4. 全死亡

5. 出血イベント (Bleeding Academic Research Consortium [BARC])

結果まとめ

※(mean±SD) or (median±四分位範囲)で記載

・患者群の特徴 (n=159)

①比較的若年 (58±13歳)

②高冠動脈リスク群(ICM 78.6%; STEMI 35.2%)

③Low EF (平均31.9±12.5%)

・抗血栓療法の平均継続期間は508日(115-986日)

・血栓縮小は76.1% (n=121)、完全消退は62.3% (n=99)で中央値は103日(32-392日)

⇒多変量解析では、非虚血性心筋症[HR: 2.74, 95%CI, 1.43-5.26]と、ベースラインでの血栓サイズが小さいこと[HR: 0.66, 95%CI, 0.45-0.96]が、血栓完全消退の独立した規定因子であった。 血栓増大は14.5%(n=23)に認められ、アドヒアランス、易血栓状態(悪性腫瘍、炎症性疾患、血液疾患)、慢性腎臓病との関連を認めた。

・MACEは37.1% (n=59)、塞栓イベントは22.2% (n=35)に認められた。

⇒多変量解析では、LVEF≧35%[HR: 0.46, 95%CI, 0.23-0.93]、3ヶ月以上の抗凝固療法[HR: 0.42, 95%CI, 0.20-0.88]が、独立してMACEリスクを低下させた。また、統計学的有意差はでなかったものの、3ヶ月以上の抗凝固療法が塞栓イベントを低下させた。

・全死亡は18.9% (n=30)、出血イベントはBARC≧2 17% (n=27), BARC≧3 13.2% (n=21)。血栓完全消退群では死亡率低下[HR: 2.74, 95%CI, 1.43-5.26]、及び出血リスク低下を認めた[HR: 0.34, 95%CI, 0.14-0.82]。

・以上より、左室内血栓は予後不良であるものの、抗凝固療法による血栓完全消退が予後改善を期待できる可能性があることを述べた。

[Limitation]

・単施設の後ろ向き研究であること。

・TTEの左室内血栓検索における感度/特異度が低いこと。

・サンプルサイズが少なく、抗凝固療法間(warfarin, DOAC)の比較ができないこと。

[読んだ感想]

・左室内血栓症の臨床転機は、考えている以上に不良であった。

・血栓消退率も思っていた以上に低く、漫然と現行の抗血栓療法を継続することに対する疑問が残る結果であった。本論文でも締めくくられているように、レジメンについては見直す余地があるのかもしれない。

・Warfarin vs DOACの議論はまだ続きそうです。

⇒DOACにて塞栓イベントが増えたという報告もでている。 (JAMA Cardiol. 2020;5(6):685-692.)

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